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陰陽師が唱える呪文。そして陰陽師が使う呪術について解説

目次

陰陽師が使用する呪文の基盤・由来

陰陽師が用いた主な呪文や真言は、道教や密教、修験道に由来しています。

・道教→中国三大宗教の一つ。「無為自然」の教え。
・密教→大乗仏教のなかの非公開の教え。金剛一乗教とも呼ばれる。
・修験道→日本古来の山岳信仰を仏教に取り入れられたもの。開祖は役小角(えんのおづの)とされる。

また、陰陽師の呪文のテキストとなっているのが次の書物です。

・周易(しゅうえき)・・・中国の占術、八卦・六十四卦についての書。
・黄帝金匱経(黄帝金匱玉衡経・こんていきんききょう)・・・中国の陰陽五行、道教について説かれた文献。
・新撰陰陽書(しんせんおんようしょ)・・・日時の吉凶や禁忌、式占についての書。
・五行大義(ごぎょうたいぎ)・・・陰陽五行についてまとめた書で、中国では亡失し日本に伝え残っている。

つまり「陰陽道独自の呪文」「陰陽師オリジナル」はないに等しい、ということです。しかしそれは同時に、陰陽師は先人たちの多くの教えを網羅・会得していたともいえるのです。

陰陽師の有名な呪文

それでは、陰陽師が唱えていた呪文として有名なものをいくつかご紹介します。なかには映画やアニメなどで使用されているものもありますので、馴染みのある呪文もあることでしょう。

急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)

これは、中国漢代の公文書の末尾に書かれていた決まり文句で、「急いで律令の如く行うべし」=「急いで物事を為せ」という意味です。

つまり、「急急如律令」という言葉自体には基本的に力はなく、式神を使役する、護符を使用するなどの呪術の際に一緒にとなえることで効果を発揮します。「早急に術や目的を成就させるための常套句」ということです。

使用例としてよく挙げられるのが「六根清浄(ろっこんしょうじょう)急急如律令」です。これは「早急に(六根である)眼、耳、鼻、舌、身(体)、意(心)を清めよ」という呪文になります。

九字(くじ)

九字護身法として知られ、もともとは中国の晋の葛洪が著した『抱朴子』で山に入るときの「六甲秘祝」の言葉です(「臨兵鬥者皆陣列前行」)。修験道や陰陽道で護身の術として伝えられ、種類もいくつかあります。有名なのは

臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
りん・びょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん
です。意味は「臨める兵、闘う者、皆 、陣列べて、前に在り」となります。
最後に十文字目を付け加えることもありますが、その際の十文字目には最も願いを込めた言葉を使います。
中世においては武士が戦に出陣する前の願掛けや、忍者の保身の術として唱えらました。
また、とくに陰陽道では
青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王(南斗)・三台(北斗)・玉女」
せいりゅう・びゃっこ・すざく・げんぶ・こうちん・ていたい・ぶんおう(なんじゅ)・さんたい(ほくと)・ぎょくにょ

と、九字を四神・神人・星神の九星九宮に置き換えて唱えていました。

◎九字護身法の印の切り方(陰陽師編)

呪文方法は、九字を唱えながら、両手で手印を結ぶ、「剣印の法」と、手刀で空中に四縦五横の格子を描く「破邪の法」の二つがあります。剣印の法は忍者が身を守る術として使用することもありました。

陰陽師は、破邪の法をほぼ用いていたとされます。破邪の法は、退魔(護身)を目的とした法です。

人差し指と中指の二本を刀に見立て格子を描く破邪の法ですが、この格子は1本1本が刃のネットのようなものを現していて、その中に侵入しようとした鬼や怨霊を、ばらばらに切り裂くという意味があります。

五芒星

九字をドーマン、五芒星をセーマンともいいます。五芒星は西洋・東洋問わず古代よりパワーのある印として伝えられていますが、陰陽道においては五行を表しています。五行=「木・火・土・金・水」を点とし、それぞれを線で結んで「相克」の意とします。五芒星の印を描いたり、描いたものを持ち歩いたりすることで、災厄から身を守り、心身を清浄に保つとされます。
また、安倍晴明が祈祷呪符として作成・使用したとされており、晴明桔梗、晴明紋という呼称もあるほどです。

晴明神社では、神紋として護符などに刻印されています。

蘇婆訶・薩婆訶(そわか)

そわかは、もともと密教で仏への呼びかけの言葉として使われており、「祝福あれ」という意味です。
呪術の末尾に添えることで「~になりますように」という願いを込めた術へ変化します。

  • 「オン キリキャラ ハラハラ フタラン パソツ ソワカ」

こちらのほうは、一度切った九字を解除するときに使う呪文です。

陰陽師が毎朝唱えていた言葉の呪符

呪文の番外編として、陰陽師が毎朝、朝日に向かって唱えていたとされる呪文、というよりは言葉の呪符のようなものがあります。

元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る

(がんちゅうこしん、はちぐうはつき、ごようごしん、おんみょうにしょうげんしん、がいきをゆずりはらいし、しちゅうしんをちんごし、ごしんかいえい、あっきをはらい、きどうれいこうしぐうにしょうてつし、がんちゅうこしん、あんちんをえんことを、つとみてごようれいしんにねがいたてまつる)

この呪文のおおまかな意味は「自分の生活を律して四柱神の加護のもと心身を神にささげ(聖別)、五陽霊神に願い奉ります」となります。種々の災難をしりぞけ、幸いをもたらす言葉のお守り・言霊として唱えられます。

陰陽師が使う呪術

先に述べた呪文が、「護身・退魔(お祓い)」あるいは「自らのため」で放つものすれば、これから紹介する呪術は、その名の通り、呪う術であり、受け身ではなく、攻撃的なものです。

有名な呪術 ①形代(かたしろ)・人形(ひとがた)

形代・人形、あるいは撫物(なでもの)など呼び方はいろいろとありますが、木や草、和紙などで人の形を作り、それを呪詛(呪い)の対象として害を与える陰陽道の基本的な呪術です。また、身固(みがため)と呼ばれるものは、要人の御衣に呪術をほどこし(エネルギーを込め)、バリア的な存在に変えていました。

形代を含む「式神」についてはこちらの記事をぜひ参考にしてみてください。

有名な呪術 ②蠱毒(こどく)

古代中国から伝来した呪術法です。
壺などの器の中に、ヘビ、ムカデ、ゲジゲジ、カエルなどの百虫を閉じ込め、互いに共食いをさせて勝ち残ったものを「神霊」として祀り、その毒を採取して呪詛(呪い)の対象者に飲ませていました。蠱毒を利用して毒殺し、その人の役職や遺産などを奪っていたので、暗殺といえます。蠱毒は何度も禁止令が出ましたが、それほどに恐ろしい効力があったと窺えます。

ですが、「毒」を使用する前に、手間暇掛けた恨み辛みを込めた作業が絡んでいるので、呪術大成、すなわち成功への見えない力(邪心)が宿っているともいえるかもしれません。

有名な呪術 ③鬼門封じ

「鬼門」とは、艮(うしとら:北東)の方位のことで、鬼が出入りする方角といわれています。
平安の世から、この「鬼門」は非常に着目され、忌むべき方角とされていて陰陽師は数々の鬼門を封じてきました。
御所や都の鬼門にあたる土地に神社をまつったり、仙木や仙果(神仙に力を与える樹木や果実)とも呼ばれる桃を植樹して結界を張ったりして、御所や都を守ってきたのです。

また、鬼門と真裏の方角は坤(ひつじさる/南西)なので、これを裏鬼門と呼び、こちらも同様に忌み嫌われています。

現代の風水においても、鬼門にあたる北東にはトイレやお風呂といった水回りに関するものの設置を避けます。

まとめ

陰陽道、陰陽師に関しては、調べれば調べるほど面白く、また確証されていない部分に想像力を埋め込むと、もっともっと陰陽道を知りたくなる、陰陽師が好きになる、という不思議な魅力があります。
現代においてもさまざまな文化や風習に根付いているので、由来が陰陽道だと知るとちょっとした豆知識や発見につながり、日常生活に彩りがでてきます。

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