LINE登録で無料音源をお配りしています

稔り宮にて

朝の空気は、土の匂いを含んでいた。
彼女は、まだ人影のまばらな道を歩き、静かに宮へと向かっていた。

鳥の声が、遠くでひとつ、またひとつと重なる。
その音に合わせるように、風が稲の葉を撫で、さやさやと小さな響きを生んでいた。

宮の前に立つと、不思議と胸の奥が温かくなった。
願い事を持ってきたわけではない。
叶えてほしい未来があるわけでもない。

ただ、ここに来て、手を合わせたかった。

彼女は、これまで多くのものを受け取ってきた。
食べるもの、守られる場所、名も知らぬ誰かの労苦。
それらは当たり前のように日々を支え、意識されることなく消費されてきた。

けれど、この宮に立つと、ひとつひとつが確かな重みをもって胸に戻ってくる。

土に触れた手。
雨を待つ祈り。
風の向きを読む眼差し。

それらが積み重なり、今日の「生きている」が成り立っている。

「豊受の神は、与える神ではない」

彼女は、ふとそんな言葉を思い出した。
育み、支え、巡らせる神。
命が命を養う、その静かな流れを守る存在。

供えられた御饌の香りが、かすかに漂う。
米、麦、粟、稗、黍――
それぞれが、長い時間と人の手を経て、ここに在る。

彼女は、深く頭を下げた。

感謝は、言葉にしなくてもよかった。
声に出さずとも、身体がすでに知っている。

「いただきます」と言う前の、あの一瞬。
命を受け取る覚悟のような、静かな間。

それが、ここでは祈りになる。

外に出ると、陽は高くなり、稲穂はやわらかく揺れていた。
黄金色にはまだ早いが、確かに実りへと向かっている。

彼女は、歩きながら思った。
人生もまた、同じなのかもしれないと。

すぐに成果が見えなくても、
報われている実感がなくても、
それでも日々は、確かに積み重なっている。

誰かのために。
自分のために。
まだ見ぬ次の命のために。

彼女は、振り返らずに歩き出した。
背中に、豊かな静けさを抱きながら。

稔り宮にて
天照大御神

アマテラスチャンネルでは、LINEを通じて皆様をお助けしております。
不安や悩み、人生の願いがあるのなら、こちらから私にご連絡ください。

https://lin.ee/NXwLSfe
感謝

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

目次